お知らせ
2025/05/22

暗号資産と遺言について

近年、暗号資産(ビットコイン、イーサリアム等)を投資対象として保有する方々が増えており、遺言の作成にあたっても、家族にどのように引き継いでいったらよいか、ご相談いただくことが増えてきました。以下にQA方式で基礎知識をまとめてみましたので、参考になさってみてください。

Q1. 取引所の口座で暗号資産を管理している場合、遺言書に秘密鍵の情報を書かなければいけませんか?

A1. いいえ。取引所の口座で暗号資産を管理している場合、利用者自身が秘密鍵を管理するのではなく、取引所が秘密鍵を保管しています。そのため、相続人に秘密鍵そのものを知らせる必要はありません。むしろ重要なのは、相続人が口座を引き継ぐための「アクセス権限」を確実に伝えることです。

  • 取引所は、利用者資産と自己資産を厳格に分別管理する義務があり、万一の破綻時には利用者資産が優先的に返還される仕組みが整備されています。 
  • このため、秘密鍵ではなく「ログインID・パスワード」「二段階認証(2FA)バックアップ情報」など、実際にアクセスするための情報を遺言書や付属のリストで整理しましょう。

各取引所が相続時の流れについて資料を出している場合がありますので、これを遺言書の別紙として添付するなど、活用されると良いでしょう。

なお、ご質問の状況とは離れますが、ハードウェアウォレット等その他の方法で管理されている暗号資産の引き継ぎには、秘密鍵の引継ぎが必要になる場合があります。

この場合、セキュリティの観点から秘密鍵を直接遺言書に記載するのは好ましくないため、秘密鍵へのアクセス方法を別紙で指示するなど工夫が必要になります。

Q2. では、取引所で管理している暗号資産について、遺言書には具体的にどんな情報を記載すればよいでしょうか?

A2.取引所管理の暗号資産については、以下を最低限記載してください。

  1. 取引所名・口座ID:どの業者・どの口座かを明確に。
  2. ログイン情報の所在:パスワード管理ツールの利用方法や、紙で保管する場合の保管場所。
  3. 2FAバックアップコード/リカバリーキー(=2段階認証ができなかった場合にアカウントを復旧するため、取引所が発行しているコード、キー)の管理場所(金庫にメモをのこしているなど。)
  4. 死亡時手続きの指示:各取引所が定める「死亡時の必要書類(戸籍謄本、遺産分割協議書等)を速やかに提出する旨」。

これらを遺言本文に直接書くのが不安な場合は、「別紙暗号資産一覧リスト」を用意し、本体にはリストの所在のみを示す方法も有効です。なお、暗号資産そのものの評価方法(相続発生日の時価などの確定に必要です。)は、申告時に税務署へ提示できるよう別途記録しておくと安心です。

Q3. 取引所に対する相続手続きはどんな流れになりますか?事前に遺言書で指示しておくべきことはありますか?

A3. 多くの取引所では、死亡時に以下書類の提出を求められます。

  • 故人の戸籍謄本(出生~死亡事項全部証明)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書
  • 相続人の本人確認書類

遺言書に「相続人は速やかに上記書類を取引所へ提出し、口座移管または売却処分を行うこと」と定めておくと、手続きがスムーズになります。

また、取引所ごとに手続の流れが異なるため、事前に利用規約や公式FAQを確認し、遺言書に主要取引所の名称と「死亡時の手続き要件は各社ウェブサイトに従う」旨を記載しておくとよいでしょう。

まとめ

取引所管理の暗号資産については秘密鍵を直接遺言書に記載する必要はありません。遺言書には「アクセス情報」と「死亡時の手続き指示」を整理・明示し、相続人が円滑に承継できるよう準備しましょう。暗号資産については、法制度がめまぐるしく変わっていく分野でもありますので、必要に応じ、当事務所へご相談ください。

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